ミスマープル |
推理小説は現在、本格ものが全盛ですが、それでもホームズとクリスティはミステリィの原点です。 私もホームズから入り、クリスティに魅せられました。 ホームズものは冒険小説の魅力に溢れわくわくした気分を味わうことができ、クリスティのミステリィ では、読者が伏線を読み解き推理するという醍醐味を味わうことができます。 そして、忘れてはならないのが、素敵な探偵役です。ホームズ、ポワロ、ミス・マープル。中でも 私のお気に入りはミスマープルです。
ご紹介しましょう。
ミス・マープル(ジェーン・マープル) Miss Jane Marple
上品で魅力的な老婦人です。イギリスのちいさな村セント・メアリ・ミードに行って ミスマープルの家を尋ねてごらんなさい。村のちょっとした有名人だからすぐに分かります。 スマートで姿勢のよい老婦人が庭で花の世話をしていれば、それがミスマープルです。 もしかしたら、部屋の中で頬をバラ色に上気させて編物をしているかもしれません。 話し掛けると取り留めなく村の噂話を聞かせてくれるかもしれません。もしかしたらあなたに 似ている誰かの話をしてくれるかも。 あなたは昔風のオールドミスだと思うでしょう。どこにでもいる典型的なイギリスの老婦人だと。 雪のような白い髪、穏やかで柔和な瞳、桃色の皺の寄った顔、ピンクのふわふわしたショールを巻いて 上品に姿勢正しく腰掛けている魅力的な老婦人。
でも、ミスマープルの青い目はしっかりとあなたを観察しています。彼女はイギリスで一番優れた 性格評論家なのです。
ミスマープルについての噂を拾うと「いいひとですけれど、ずいぶん昔の方という感じですわよ。」(バントリー夫人・出典:『火曜クラブ』)という具合で、ずいぶん古風な雰囲気をもつご婦人のようです。村の中ではさすがに 性格の方も知れ渡っていて
「時代劇から出てきたような人でね。ヴィクトリア時代の生き残りってところかな」(レイモンド・ウエスト・出典:『スリーピング・マーダー』)
「村中で一番意地のわるいひとよ」(グリゼルダ)と、なかなか手厳しい。
「何に対してもわざわざ最悪なことを考える人ですよ」(レナード・クレメント)
(出典:『牧師館の殺人』)
ミスマープル自身、言っています。「人の言うことを鵜呑みにしちゃいけませんわ」(出典:『牧師館の殺人』)『人間性』 ミスマープルの考え方の中で特に注目すべきなのが「正義に対する考え方」です。 彼女は「悪に対する優れた感覚」を持ち合わせているのです。 だから、ミスマープルが『カリブ海の殺人』のクライマックスにおいて名乗る名が 「ネメシス」であるのはもっともなことです。ネメシスはギリシア神話の復讐の女神ですが、 単なる復讐というよりは、義憤、不当なことに対する憤りをもって人を罰する神さま。 ミスマープルの性格にぴったりだと思いませんか?
「最悪のことって、よく真実な場合がありますからね」(出典:『魔術の殺人』)
そんなミスマープルの推理法はとっても独特です。彼女は今までの経験から、その人物に似た 性格の人を思い出すことができるのです。だから、その人物はどう行動するかを推測できるという わけですね。その鋭い観察力は犯人だけではなく、被害者の性格にも向けられます。 人のよさそうな昔風のおばあさんが次々と難事件を解決していく。なんだか わくわくしてきませんか?
information〜「読んでみようかな」と思われた方へ〜
早川書房でクリスティー文庫が創刊されました。
おすすめ度:厳し目に5段階評価にしました。あくまで私の主観です。
- Murder at the Vicarage 牧師館の殺人 1930 ★★★★☆
- The Tuesday Night Club 火曜クラブ 1932 ★★★★★
- The Body in the Library 書斎の死体 1942 ★★★★☆
- The Moving Finger 動く指 1943 ★★★☆☆
- A Murder Is Announced 予告殺人 1950 ★★★★★
- They Do It with Mirrors(Murder with Mirrors) 魔術の殺人 1952 ★★★☆☆
- A Pocket Full of Rye ポケットにライ麦を 1953 ★★★★★
- 4.50 from Paddington(What Mrs. McGillicuddy Saw!, Murder She Said.) パディントン発4時50分 1957 ★★★★☆
- The Mirror Crack'd from Side to Side(The Mirror Crack'd) 鏡は横にひび割れて 1962 ★★★★★
- A Caribbean Mystery カリブ海の秘密 1964 ★★★★☆
- At Bertram's Hotel バートラムホテルにて 1965 ★★★☆☆
- Nemesis 復讐の女神 1971 ★★★★☆
- Sleeping Murder スリーピングマーダー 1976 ★★★★☆
ミスマープルの理解者のみを取り出して載せています。 もちろんスラック警部は絶対に載りません。
登場は『火曜クラブ』『牧師館の殺人』『スリーピング・マーダー』など。ミスマープルの甥で人気作家。自分ではそれなりに世間のことを分かっていると思っており、ミスマープルの住む セントメアリミードをよどんだ池のような場所だと主張する。ミスマープル(たち老嬢の 辛らつな噂話)を台所の流しのようだとも言っている。下品で汚いと 言いたいのだろうか。
『火曜クラブ』『牧師館の殺人』ではとうとうと自らの推理を述べるが、結局のところ道化役で終わっている。
「論理的に考えれば、たった一人の人間だけがプロズロウ大佐を殺せたんです。」 (出典:『牧師館の殺人』)
もちろん、ミスマープルのことを気にかけているのは確かであり、付き添い婦や休暇旅行などを 手配してくれる面倒見のいい甥(だからこそここに載せているわけであり、マープルファンにとって 彼の存在意義はそれに尽きる)
ちなみに叔母さんのために手配した休暇旅行でたびたび殺人事件が起きてしまっているのはご愛嬌。 もちろん慎み深いマープルおばさんが自分の活躍を話すはずもなく レイモンド・ウェストはおばさんが実はスコットランドヤードにも一目置かれる人物であることを 知ることはない・・・。ぜひとも、ファニー叔母のセリフ(『牧師館の殺人』の後半部分)を 彼に面と向かって言ってあげたいです(笑)
<素朴な疑問その1>レイモンド・ウェストの両親や祖母(ミスマープルの姉妹)が一度も出て こないのはなぜだろう?私はレイモンド・ウェストが若いうちに亡くなったのはないかという 想像をしている。肉親の縁に薄いからこそ叔母さんへの援助を惜しまないのではないか? (メロドラマ的な発想をしすぎ?)
<素朴な疑問その2>ミスマープルにはいったい何人の甥姪がいるのだろうか?彼女はしょっちゅう 甥や姪のために編物をしているが、相当たくさん甥や姪がいないとミスマープルの古風な家は 彼女が編んだふわふわしたニット類で溢れかえることになりかねない・・・。
登場は『牧師館の殺人』『書斎の死体』『パディントン発4時50分』 『鏡は横にひび割れて』 『スリーピング・マーダー』 など。 セントメアリミードに住む医師。患者のことを良く心得ており、信頼されている様子。 『管理人の事件』 『鏡は横にひび割れて』では、ミス・マープルへの 治療として殺人事件の解きほぐしを処方するなど、なかなか粋なはからいをみせるミスマープルの 良き主治医。
「とっても高潔な方ですものね。それに大変な名医ですわ」 (出典:『牧師館の殺人』)とミス・マープルも絶賛している。 こういうお医者さんが居てくれれば、病院に行っても不愉快になることは少ないんじゃない でしょうかね。気さくに往診してくれるし、依頼人、患者の秘密は絶対厳守だし。
正義感について独特な考えを 持っているように振舞っているが、実際は・・・?(『牧師館の殺人』ラストをご覧下さい)
登場は『火曜クラブ』『書斎の死体』『予告殺人』。ロンドン警視庁の元警視総監。 ミスマープルの才能をいち早く見抜き、絶賛するミスマープルファン第一号。 威厳のある老紳士。ミスマープルファン第二号(?)クラドック警部の名付け親でもある。 この人が居なければ、ミスマープルは少し動きにくかったに違いない。ただし、クリザリング卿の 宣伝がなくても、ミスマープルは活躍してのけるに決まっているが(参照『カリブ海の秘密』)・・・。
登場は『予告殺人』『パディントン発4時50分』『鏡は横にひび割れて』。おだやかで知的な 刑事。『予告殺人』の記述によると容姿も良いようであるが、『鏡は横にひび割れて』時点でも独身。 優秀であるようで、初登場時には警部であったが『鏡は横にひび割れて』ではロンドン警視庁 捜査課主任警部に昇任している。ワーカーホリックなのかもしれない。ゆくゆくは名付け親のように 警視総監にまでのぼりつめるのだろう。
『鏡は横にひび割れて』ではミスマープルとの再会シーンで言う一言はマープルファンを嬉しがらせて くれる。マープルファン第2号(笑)。しかし、初登場(『予告殺人』参照)時はミスマープルに 懐疑的で(当たり前だが)ちょっとしたテストをしてマープルを試している。そういうところを見ると 性格はけっこう悪いじゃなくて、慎重だといえそうだ。
クレメント牧師の奥さん。美人で茶目っ気がある。夫の牧師さんを差し置いて 『牧師館の殺人』『書斎の死体』『パディントン発4時50分』『鏡は横にひび割れて』の4作に登場する。 (といっても『牧師館の殺人』を除けば、登場シーンは短いが)
彼女独特の哲学がとてもチャーミング。クレメント牧師の気苦労がしのばれます。
教区牧師。『牧師館の殺人』に登場し語り手を務める。グリゼルダを熱烈に愛しており 彼女との年齢が離れていることを気にしている。
牧師らしく穏やかで人当たりの良い人物ではあるが、内心では鋭いつっこみを見せるなど、なかなか 興味深い人物である。たとえば・・・・。暴発すると何を言い出すか分からない。きっとこの言葉を聞いたミス・ウェザビーは目を白黒させた ことだろう(大いに憤慨したであろうことはもちろんだが)。牧師さんが 内心の呟きを全て口に出したらセントメアリミードは大混乱になりそうだ。
おそるべきミス・ウェザビーが「法廷に立つなんてぞっとしてしまいますわ」と言ったのに対して
「特別な場合には座らせてくれますよ」と返すなど
登場は『カリブ海の秘密』『復讐の女神』。毒舌家の大富豪。 身体が悪く医者に見離されるほどだが、意志の力が強く精力的に投資活動を行う。 『復讐の女神』ではミスマープルのちょっとしたパトロンになる。
ラフィール氏とのコンビはもう1作発表される予定だったようですが、発表前にクリスティが 亡くなってしまったのはとても残念なことです。
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