いただきもの

長月汀華さんから100000ヒット記念をいただきました。ありがとうございます! 鷹男の帝と藤宮さまの二次創作をお願いしたところ、こんな素敵なお話を作ってくださいました。 藤宮さまがとってもおちゃめで可愛らしいのでぜひ読んでみてください。

昔ばなし

 しとしとしと。

 小雨が降っている。

「そういえば、昔、鷹男に文をいただいたのは、私が初めてでしたのよ」

 秋の夜長、藤宮と鷹男は瑠璃姫を交えて、昔話をしていた。

 瑠璃姫が吉野君の思い出話をした次である。

 藤宮様は何を話すのだろうと、興味津々でいた瑠璃姫は目を丸くした。

 鷹男は苦笑していた。

「あの頃は、まだ誰も入内はしていませんでしたからね」

「お花も直に渡しにいらしていただいて、ほんとに嬉しかった。
 頼る者がいない中、東宮只お一人が私の話し相手でしたわ」

「…」

「だから、私、大きくなったら、この方に嫁ごうかと思ったのですもの」

 げほげほ。

 茶菓子を食べてた彼は、目を白黒させる。

 どうやら、初耳だったらしい。

「あとで東宮だと分かったので、止めにしましたわ」

「…」

「だって私も瑠璃様みたいに、私だけを妻にしてくれる人に嫁ぎたかったですもの」

「…」

「それで、私、少し悔しくて仕返しをしましたのよ。
 優しさは時によって罪になりますわ。だから、ささやかに、ね」

「まあ」

「或る日、花瓶が一杯だからと、貰ったお花を一度引き取りに来ていただいたんですけど。
 その時に虫をわざとのせて送り返しましたの」

「でも、男の子って虫、平気でしょう? …あ、皇族だから、駄目とか?」

そういえば、吉野の君も虫は苦手にしていた覚えがある。

「同じ宮育ちでも、私のほうが結構平気だったほうなのですわ。観察なんかしたりしてましたもの」

「鷹男は虫嫌いなのですね」

「ええ、見たことの無い物が動いてるって、顔がひきつっていましたわ」

「その夜は寝込んだくらいですよ、今でも虫は苦手です」

「その頃の鷹男見てみたかったな、私も」

「私のほうこそ、瑠璃様と吉野で過ごしたかったですわ。彼の君もいて、さぞかし楽しかったでしょうに」

 そういった藤宮は、まるで子供の頃に戻ったように笑った。

 藤宮様の少女時代も見てみたいけど、あの頃に会わなくって良かったと思うのは瑠璃姫。

 だって…吉野の君が求婚するのは彼女だったかもしれないから。

 遠い記憶の中、恋には満たなかったけど、幼いながらも大事な想い。

 吉野の桜が満開に咲くように、いつまでも消え失せない輝きを放つことでしょう。

 其れは瑠璃姫と吉野君だからこその、光る思い出。

 憎しみも悲しみも、笑顔があれば、浄化される。

 護摩の火を焚くように、迷いは灰になればいい。

 昔は昔の事。

 未来は未来の事。

 皆、先へと進んでゆくのだから。

 
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